先輩秘書からのメッセージ 篠田 文治

四智円明の月さえん

三人の子どもが 外から走って帰ってきて
父ちゃん 父ちゃん
美しいお月さんが 今出ていられるよ
とてもきれいなお月さまだよ と言う
私は仕事を止めて 東の窓をあける
ほんとうに久しぶりの月だ
ああこれをば 四智円明の月 と言うのであろうか
そんなことを考えながら 合掌礼拝をする
(「坂村真民全詩集第二巻」大東出版)

 ほのぼのとした温もりと静かな幸せを感じる素敵な詩です。
 江戸中期の臨済白隠禅師の坐禅和讃。「衆生本来仏なり 水と氷の如くにて」で始まる七五調の経文の中で、理想の心持ちを表した一行に、「三昧無礙の空ひろく 四智円明の月さえん(煩悩を離れて清らかなお月さまが輝いています)」とあります。我々も、十三夜のお月さまのようにありたいものです。
 当協会では企業のトップに仕える役員秘書(Executive Assistant)の方が大多数ですが、私自身二十数年前に秘書室にいて、なぜ他の管理部門のように明確な職務権限(Job Description)が秘書には無いのだろうか、存在ありしも権限無しなのかと疑問に思うことがありました。皆さんも時にこの点で悩まれることがあるかも知れません。
 秘書(Secretary)をウィキペディアで見ますと、「その職務は広いが、共通するのは、重要書類(匿秘情報(著者注))を扱う仕事であること」とあります。どうもこれが秘書の由来と職能でありましょう。
 扨、日本企業のトップに求められている役割は多岐ですが、取り分け重く大事なことは、第一に会社の将来と、長期戦略に即して正しく後継者を選ぶこと。

次に、すわ会社一大事の事態では、間違いなく判断し対応することであります。
 過去の危機管理、会社不祥事の例を学びますと、その時トップに求められていたのは、自らの出処進退も含めて、中村天風の好んだ六然訓のなかにある、「藹然接人」(藹然として人に接す)、「毅然持節」(毅然として節を持す)、更には「泰然處難」(泰然として難を處す)の姿勢であったことが多いようです。
 そのような状況で、日頃から経営者に接する機会の多い役員秘書にとって、特に求められることは、「禅」、即ち「心が落ち着いている、心が何事にも揺るがない」の心境であるかもしれません。
 これはなかなか言うは易しや……でありましょう。しかし日頃の習慣で、少しでもこれに近付けることはできるようです。先ずは、立腰(常に腰を引き確り立てる、これが崩れるのを腰くだけと言います)、上虚下実(肩の力を抜き肛門を締めて下腹部(丹田)を充実させる)、そして、長息(深~くゆっくりと息を吐く)。特に呼吸法は大事です。動転することを英語でアップセット(upset)とも言いますが、緊張して度を忘れるとき必ず肩で浅く息をしています。
 平素平穏には表に出ることの少ない裏方の秘書役、なかなか仕事の中身を他には話せない秘書稼業ですが、せいぜい本秘書協会の交流の場を活用されて、研鑽向上して語り合い、ご自分の佇まいと心持ちを正しくして、望む心はいつも四智円明でまんまるく、で参りましょう。
 立春、雨水、そして啓蟄と心が弾む季節です。皆さまもお元気でご活躍ください。

〖機関誌「秘書」2016年2.3月号 掲載〗