先輩秘書からのメッセージ 藤田 紀久子

情熱を傾けられる仕事

 20年前と様変わりしたことの一つにビジネスホテルのクオリティがあるのではないでしょうか。抑えた価格のシングルルームでもシモンズのベッド、温水洗浄便座、WiFi完備は当たり前となり、通常の出張はビジネスホテルのミニマムなサービスで十分と感じていました。その一方で、この間に日本進出を果たした国際的なラグジュアリーホテル各社の贅を極めた客室や施設も見慣れたこともあり、今後中間層のホテルがどのように特長を打ち出していくのか、個人的に興味を持っておりました。
 さて、先日、久しぶりにあるシティホテルに宿泊しました。前日から地方に滞在していて、夕方から次の街に移動、チェックインしました。フロントの女性の丁寧な対応、私のスーツケースを持ってお部屋まで案内してくださったベルの女性との何気ないやり取りで、単独での出張の緊張感がほぐれていく心地よさを感じました。外出するときには笑顔で「行ってらっしゃいませ」と声を掛けられれば、常宿にいるような気持ちになります。ハイスペックな客室だけでは実現し得ない、従業員の方々の気遣いとチームワークによる行き届いたサービスを改めて見直す機会となりました。
 その翌日飛行機が羽田空港に到着すると、機内アナウンスで名前を呼ばれ、地上係員と連絡するようにとのことでした。申し出てみると、「お客さま、空港内ショップにいらっしゃるには…」と丁寧に順路を教えてくれました。出発時のカウンターで、到着後に羽田空港内のショップに用があると私が口にしたことを覚えていてくれて、カウンターの担当者が連携をとってくれていたようでした。しかも、私が日付を間違えて予約していたことが発覚し(秘書時代にこんな失敗をしなくて良かった!)、余計なお手数をお掛けしてしまった上でのこの配慮でした。用を終えて荷物を引き取りに行くと、バゲージ担当者も心得ていた様子でした。期待を超えたサービスにまたもや感心させられました。

 化粧品の専門店を展開する仕事柄、従業員の教育やサービスの質は、常に気に掛かるテーマです。化粧品の世界でも製品のハイスペック化が進み、インターネット販売のチャネルも整ってきていますが、それだけに店頭では適切なサービスを求められる場面が多いです。単なる化粧品フリークでは務まりません。一般的に人間関係そのものが希薄になりつつある若い世代の方々が、お客さまに心から喜んでいただき、「また利用したい」と思わせるサービスを提供するための原動力は何でしょうか?
 かつて同じ職場でお世話になった先輩と話していたときに、彼の「情熱を傾けられる仕事をしたい」という言葉に、そのヒントを得たように思いました。論理的で緻密な印象の方が「情熱」と口にされるのは意外な気持ちがしましたが、それなりの年齢を重ねた私たちにとって、いかに仕事に情熱を傾けられるかということは確かに特別な意味を感じます。若い世代であれば、「その仕事が好きで、一生懸命になれる」と置き換えられるでしょうか。自分の仕事に魅力や遣り甲斐を感じ、情熱を傾けられればこそ、必ずしも正解が一つではないサービスの世界でも、その質を高めていこうと努力することができ、そしてその歩みが自らのモチベーションにも繋がるのではないかと感じます。
 上述の素敵なサービスをしてくださった方々もきっとお客さまを喜ばすことが好きなのだろうと思いました。仕事への情熱が原動力であるからこそ、その笑顔がより魅力的で心安らぐものだったのだと納得しました。

〖機関誌「秘書」2015年5月号 掲載〗