先輩秘書からのメッセージ 田村 厚子

大事にいたらないために

先日、上司から、中国前漢代の儒教的立場から様々な伝説・故事を収録した説話集「説苑」にある一説を紹介されました。

-患生于所忽、禍起于細微-
【読み】『患(わずら)いは忽(ゆるが)せにする所より生じ、禍(わざわい)は細微(さいび)より起こる』
【解説】患: 心を悩ませること、心配の種、苦労
    忽せ:物事をいい加減にするさま、なおざりにするさま
    禍: 災難、嫌なこと、トラブル

 これは、「後々、心を悩ませたり、苦労することや心配の種になることは、今現在、気掛かりとなっていることをいい加減に処理したり、なおざりにする事により発生してきて、トラブル・災難は、小さなほころびより起こってしまうこと」を戒めたことばです。
人間の失敗の本質は、ちょっとした気持ちのゆるみや油断や馴れから、取り返しのつかない大きな事を生むということを言っています。
 困難な局面にあるとき、難しい仕事を抱えて、それらに一生懸命に取り組んで対処しているときには、緊張感で張り詰めているため、細心の注意を払い精神が研ぎ澄まされています。気持ちのゆるみや油断や馴れが起こるのは、むしろ仕事が順調に運んで安定しているときです。今までと同じだからと確認を怠ったり、準備を省いたり、慣れた業務だと油断したりすると思わぬ展開に足をすくわれます。

人間には、何か問題が発生しても、些細な問題だからと目をつぶりがちな傾向があります。その結果、問題がこじれ、いよいよ解決を難しくしてしまうこともあります。好調なときにこそ、いっそう気持ちを引き締めて仕事に取組み、禍は些細な段階のうちに芽を摘み取る姿勢が大切です。
 秘書の仕事は、準備はどれだけしても足りないくらいの気持ちで日々過ごしている方も多いことでしょう。トップのマネジメントの補佐業務は、多岐にわたり緊張が続きます。強靭な精神が求められます。ただし、ふとしたことに落とし穴があります。何かあやしい雰囲気がするが、声を出して意見するまではないなと判断したことがやはり問題となり、あの時確認していればと悔いても起きた事象は戻せないのです。一瞬でも自分の中に迷いが生じて、まあいいかなと思ったこと、何度かやり過ごせたので今回も大丈夫だと自分に言い聞かせてしまったこと、反省することがあっても、時間が経つと意識が薄れていってしまうことなど、気持ちのゆるみはいくらでもまわりにあります。しかし、常に緊張状態にいることは、体も持たず難しいことです。ときとして上手に気分転換を行って、新鮮な精神状態を保つのも大切だと言えます。
 自分の敵(大事にいたること)は、自分自身の中にあると肝に銘じることから、少しでも禍が生じるリスクを減らし、日々の仕事に取り組んでいきたいものです。

〖機関誌「秘書」2015年7月号 掲載〗